エッセイ  オーガニックガーデン

私の子供が小学生で役員をさせていただいた時、よくしてくださった先生のお勧めで、私の最も苦手な文章の会『エッセイの会』に入会しました。途中病気で休んでいましたが、エッセイの勉強をさせていただいてから30年になります。
去年の暮れに提出した作品が好評でしたので、恥しながら皆様にお披露目しちゃいます。キャッ、はずかしい。

 

オーガニックガーデン

矢澤 育美

 「えー、何で室内空気環境がこんなに悪いの。」完成して二年目のお客様宅へ訪問させて頂いた時に思わず叫んでしまった。

 私が化学物質過敏症を発病してしまった事を機に、会社が室内空気環境を重視した住宅建設に切り替えると、アレルギーや喘息の皆さんや、健康意識の高い皆さんに共感頂いた。私の病気も、会社を通して必要な皆さんの役に立った形となり、報われるような気持だった。

 ところが、健康意識の特に高いお客様宅の室内が、農薬のニオイで充満していたのである。ふと外に目をやると、タイルデッキに数々の殺虫剤が置かれていた。お客様に尋ねると、庭木に虫が付くのが嫌なのだという。私は、頭が真っ白になってしまった。

この事がきっかけとなり、庭も無農薬に出来たらいいと悩んだすえ、私はオーガニックガーデンマイスターの取得を決意した。

 資格取得の三泊四日の合宿では、先ず代表の曳地さんが、「害虫って何でしょう。」と、言った。次に、一番下が芋虫、二段目が雀、三段目がモズ、一番上が鷹の絵が描かれた紙コップのピラミッドタワーが出てきた。

例えば一羽の鷹が一か月間生きるのに、食物連鎖底辺の芋虫にすると単純計算で、二万匹必要なのだそうである。一羽の鷹に二万匹の芋虫のピラミッドタワーが、自然のバランスで、底辺が崩れると頂点のものから生きられなくなる。「現実では、頂点は人間だ。害虫と言われる生き物を慈しもう。」と、言うのである。

菌類の写真家であり自称『糞土師』の伊澤先生は「野糞のすすめ」を説く。人間の一生の糞は一トンだが、下水処理になると四トンの処理エネルギーが必要なのだそうだ。人工的に処理しないで野に返すと、動物や昆虫や菌の食料となって食物連鎖の一員となるという。微生物や菌類の美しい写真を添えて話して下さった。確かに人間で、いつも食物連鎖は止まっている。サークルになっていないのだ。

樹木医の岩谷先生は、適材適所を考慮せずに植えられる街路樹の悲鳴を、経験の写真を添えて教えてくれた。我が家の近くの街路樹の下には、アスファルトが敷きつめてあったので、胸が痛い気持ちで聞き入った。

こうして、合宿が終わり論文と課題を提出する為に、ニンニクとごま油・ニンニクとドクダミとトウガラシと木酢液の二種類の害虫忌避自然農薬を作った。蜘蛛が住みやすい環境づくりや小鳥を呼ぶ環境づくりを習った通り実践してみた。生ごみはコンポート。そして落ち葉と生ごみの発酵土に、ネギやミニトマトを植えた。

柚の木は、消毒もせずそのままにしていると、春からアゲハ蝶の幼虫が元気よく葉を食べて木を坊主にしてしまう。だが、一匹もさなぎになった所を見ていない。幼虫が大きくなると、鳥が食べてしまっているのだろう。虫の世界も厳しい事を知った。

毎年、小さな草むらで生えるカマキリが可愛くなっていった。しかし、卵を蓄えた大きな母カマキリを、この秋、野良猫が咥えて連れ去ってしまった。我が家の小さな庭の頂点は、野良猫である。

そして、お客様には、北の隙間にミョウガを植えて土の部分を残すよう勧め、自然農薬の造り方と、黒蟻は、殺さないようアナウンスするよう心がけている。なんと黒蟻は、家を傷める白蟻が大好物なのだそうだ。

こうして私は、ほんの小さな自然回帰運動を出来る事から始めた。